冬になるとお風呂に入る時間が至福ですよね。
せっかくの入浴中はSNSから距離を取りたい私は、いつもKindleを持ち込んで読書タイムを楽しんでいます。そろそろ、お風呂の季節がやってきたので、今回こちらの作品が私のお風呂タイムのお供となりました。
「傲慢と善良」は第7回ブクログ大賞史小説部門で受賞していることもあり、AmazonのKindleでランキング上位でレビューもかなり興味を惹かれるほど好評だったのをきっかけに、購入しました。
恋愛小説、ミステリー小説と言われるこちらの小説はかなり考えさせられる作品だったので、私がこの小説で感じたことや考えたことを書き綴っていきたいと思います。
ネタバレをする気はありませんが、どうしても「この時に、こう感じた」と話をしていくので結果的にある程度ネタバレになってしまうと思いますので、まだ作品を読み終わっていない方はご注意ください。
著者の辻村深月さんについて
小説を読むようになってそこまで年数が経っていないので、まだまだ著者名を聞いてもパッと代表作が思い浮かばないような私ですが、今後辻村深月さんの作品は追っていきたいと思ったので簡単にわかる範囲について調べました。
受賞候補歴はたくさんあって覚えきれなかったです。
- 2004年に『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し作家デビュー
- 2012年に『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞
- 2018年に『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞(映画化されている)
- 2019年に『映画ドラえもん のび太の月面探査記』で脚本担当として関わった
『傲慢と善良』の概要
タイトル | 傲慢と善良 |
著者 | 辻村 深月 |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版日 | 2019年3月5日 |
ジャンル | 恋愛ミステリー |
第7回ブクログ大賞史小説部門で受賞しています。
『傲慢と善良」のあらすじ
婚約者の坂庭真美が突然行方不明になった。居場所を見つけるために西澤架は彼女の過去を遡って行く。
帯には著者の辻村深月さんから「心に刺さる何かと出会っていただけたら幸いです」というメッセージが書いてありました。
私の感想に関連性のある登場人物
- 西澤架:ルックスがよく女性経験が豊富。周りが結婚し始め、婚活を始める
- 坂庭真美:群馬出身の箱入り娘。婚活で架と出会い婚約する
- 坂庭陽子:坂庭真美の母親。真美の世話を焼きたがり過干渉(子離れできていない親)
- (旧)坂庭 希実:真美の姉。すでに結婚していて子供もいる。
- 小野里:真美が群馬在中の時にお世話になった結婚相談所の人
この「小野里」さんが、最も重要人物です。この人の言葉一つ一つが、多くの読者の胸をチクチク時にはグサグサ刺してきます笑
私は電子書籍をKindleで読んでいるのですが、Kindleには「ハイライト」という重要だと本で重要だと思った部分に線を引ける機能が備わっており、多くのユーザーがハイライトした箇所には「〇〇人の人がここにハイライトをつけています」と表示がでます。
この小説に登場する小野里さんのいくつものセリフに、多くの人がハイライトをつけていました。
ハイライトをつけられたその箇所は、現代の婚活事情の息苦しさがリアルに感じ取れるセリフばかりです。もちろん、婚活をしたことがない人でも恋愛経験があれば思い当たる節があって、チクチク刺さると思います。
『傲慢と善良』を読んだ感想
気づかないうちに自分は傲慢になっているかもしれない。
人の傲慢さは気付きやすい、けど自分の傲慢さはなかなか自分で気づくことができない。この作品で私はそれを強く感じ取り、「人の振り見て、我が振り直せ」という言葉を心に強く持とうと思いました。
特にそう思わせたのは真美の傲慢さに気付く架の姿からでした。
架の傲慢
行方がわからなった真美の過去を追う過程で、架が出会った結婚相談所の小野里さんの言葉を聞いて、【傲慢】と【善良】について強く意識をするようになりました。
その後、真美の婚活が上手くいかなかった理由が真美の持つ【傲慢】だったと理解し、自分も同じ理由で婚活が上手くいかず思い悩む時期があったと振り返っていました。ここに自分の中にある傲慢を認めていました。
婚活に向き合う自分の姿勢が傲慢であったこと振り返るシーンは何度かありましたが、私には「真美が行方不明になった時に、思い当たる要因が真実を狙うストーカーだけだった」という【傲慢】にいつ気付くのかな、と思っていました。
その【傲慢】に気付くチャンスがあったのに、架は気付くどころかそのチャンスをくれた相手に怒りだしました。忙しいだろうにわざわざ時間を割いてくれたことへ感謝していた相手なのに、自分に非があるかもしれないと言われた途端相手にその感情を隠そうとしないその態度に「あちゃーダメだこりゃ」ってなりました笑
この時、怒らせてしまった側は架の【傲慢】に気づいたでしょうね。そして、彼女は自分はそうしないように気をつけようと思ったことでしょう。そういう描写がなくとも、容易に想像できます。
だから私は、人の傲慢はわかるけど自分の傲慢さには気づけないことが多い。だから、「人の振り見て我が振り直せ」なのだと思いました。
真美の傲慢と善良
過去の婚活で架が気づいた真美の傲慢。それは結婚相手に求めた『平凡な幸せ』。
「贅沢は望まない」
「高望みはしてない」
「普通の幸せが欲しい」
そう言っていてもいざお見合いしたら、「服装がダサ過ぎて話にならない」「カッコいいのに、全然喋らない」と不満な点が気になって先に進めない。そんな真美を見てイライラしたと感想を述べている人もいましたが、私はイライラすると言った負の感情は持ちませんでした。
ただ、「服装がダサいから」という理由でお断りするのは勿体無いな、なんて思いました笑
婚活の障害になる【傲慢】との向き合い方
結婚したいのに、結婚できない。その焦りがありながらも妥協できない気持ちに苦しんでいた真美。「自分の求める水準が高すぎるのか、どうかがわからない。でもきっと求めすぎなんだろう」と自覚していました。
高望みはしていないと言いながら身の丈に合っていない好条件の異性との出会いを求めていたら、流石に、いつまでも結婚できない。でも、結婚相手って誰でも良いわけじゃないから「この人でいいのかな」って迷って、ずっと迷路の中を彷徨っているような気になってくるんじゃないだろうか。
結婚相談所の小野里さんのおっしゃる通り「結婚相手に何を求めるか」を明確化することが解決策なのかもしれない。自分の経験を踏まえてもそう思います。
親の言うことを素直に聞く【善良】は中学生までなのかも
親の言うことに素直に従う【善良】、嘘をつくことはいけないことだと言った道徳的な【善良】が話にありました。
【親に素直に従う善良】は中学生までで十分なのかもしれない、と考えました。それは、真美の姉である希実の存在がきっかけでした。作中では、希実は高校生の頃には母親に反発するようになり、親の過干渉を拒否し自分で考え、自分で行動していったからです。
自分の人生の責任を持つのは、親ではなく自分。だから、親の言うことを素直に聞くことではなく、『自分で考えること』ことが高校生の頃にはもう必要になってくると思います。実際、選んだ高校・大学ですでにその後の人生が大きく変わるので、高校選びからしっかり自分で考えるべきです。
※真美は、母親が勧めた女子大学へ進学していました。
この部分を考える度に「あー、自分も高校選びをもっと真剣にやれば良かったなぁ」なんて後悔するので、胸がチクチク痛みます笑
母親 陽子の【傲慢】
親の「心配だから」と言う感情は、もちろん子供を愛するが故ですが、子供の失敗を恐れて自分の把握している環境の中で自分が良いと思う結果へ導こうとするのは【傲慢】なのでしょう。
子供の人生を自分の物語の一部にしてしまうのは、どの程度”あるある”なのかはわかりませんが、私の親が割と放任主義だったことに感謝しています。
心配していても、あれやこれやと口を出さないでいてくれたからこそ、私は自分で自分のことを考えられるようになったのだと思います。私の場合は、安易に高校やその先の進路を決めて今たので結構後悔していますが、結局自分で決めたことなので自分が悪いと割り切れています。
真美は、ずっと母親 陽子の言うことを素直に聞いてきたからこそ、失敗した時、何かを言われた時「お母さんが言ったからその通りにしたのに」と憤りを見せたシーンがありました。自分で決めなかったから失敗した時に人のせいにしてしまう。
これが母親 陽子の【傲慢】が招いた結果でした。
すでに娘や息子を持っている方がこの作品を読めば、この陽子の気持ちがわかったり、わからなかったり、私ならこうするなんて考えが生まれたりするのでしょうね。
「傲慢と善良」感想のまとめ
テーマが恋愛、婚活だったので身近で共感できる部分が多かったのと、行方不明の真美を探すミステリーな部分が面白くて夢中になって読みました。
共感するだけでなく、登場人物たちが持つ【傲慢】と【善良】に気づくたびに「自分はどうだろう?」と考えさせられる作品でした。
一つ一つ自分なりの考えを出したいと、自問自答を繰り返したので作品を読んでいる期間はぼーっと考え事をする時間が増えました笑
夫にも夫の婚活事情を聞いてみたり、夫にも考えを聞いてみたりと話題のネタになりましたよ。
婚活は経験していませんが、結婚するまでの過程を何度も何度も思い出しました。そして、私が結婚できた理由も【傲慢】と【善良】の中にあるんだろうな、なんて思ったり。
いろんな人におすすめしたい作品です。特に、小野里さんの言葉はナイフのように心に刺さる人が多いので、ぜひチェックして欲しいです。
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